迷路の森
方位磁石が狂っている事に気付かずに
いや、気付かないフリをし続けて、
引き返す場所さえ見失った。
どうやら薄暗く陰気な森の奥の様だ。
立ち竦むと走馬灯が駆け巡り出した。
すぐに飛び込み、
すぐに信じ、
すぐに委ね、
すぐに許した。
酷く渇く、息が苦しさを増す。
何故ここまで歩いてきたのか思い出す事は出来るのに、
ここから何処に行くつもりだったのか、何もかもが霞んだ。
迷っているのは肉体か精神か。
飲み込まれたこの森は一体誰が創り出したのか。
悴む指先は完璧に感覚を失っていた。
寒くて寒くて寒くて。
微笑みながら迎えに来てくれるのなら
悪魔でも良いとさえ思う。
そうだ、ここに迷い込んだのは己の意志なのだ。紛れもなく。
逃げ出すしかないと思ったのだから。
光は射すのに、孤独極まりない場所に辿り着いた事を責めていたから…。
後の祭り、笑うしかなかろうよ。
抜け出したくなったら抜け出せるさ。
この迷路の森を創ったのは自分自身だととっくに知っていた。
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