微睡みの行方

彼女は彼の大きなバスタオルに包まり
朝の光の中、静かにその涙を拭った。

彼の放った正論を理解しながらも
受け止める時に、少し違和感のある痛みが伴ったからだ。
…では何故、私をここに?

いつまでこんな不毛極まりない、
愛に辿り着かない恋擬きの感情に心を傾けるのだろうか。

二人でいる寂しさに蝕まれるのなら、一人孤独に、しかし気楽にいた方が毒ではない。
共に過ごしても、迸る情熱を幾度重ねても、決して交わらないものが明確になっていくだけであろう。

後ろ髪なんて抜ける位引かれようが、
もう振り返るわけにはいかない。
この種の馴れ合いはいずれ何かを壊すだけの悪性腫瘍である。
元の人生や自分を取り戻すなら、いつだって早い方がいい事を知っている。

愚かになりたかった。
望まれていたのなら。

彼が時折、鏡に映った自分の様で放っておけなかったけど、錯覚だった。
自分は自分を守るべきだ。

不確かな余韻にスポットを当てるべきではない。
必要とされる事を必要としていた。
自分が消えても何も変わらず、笑顔で生きていける男に捧げる時間は無い。

少しだけ足踏みして微睡んだね、二人
とっても楽しかったわ。
ふいに幻想が立体的で鮮やかな気がして束の間は幸福な気持ちで。

吐き棄てる様な謝罪の軽さ。
忘れる事はないけど、忘れてと願う。
嘘は無かったが、真実も無かった。

あぁ、彼の微かな残り香さえもうタイムリミット。どんどん薄れていく。

もう少し微睡んでいたかったけれど、
それを拒んで彼女はそっと歩き出す。
もう涙は流さなくて良かろう。

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