One Wish

あなただけだった…。
あなただけだったの。

他人に上手く媚びたり、
愛想良くなど出来ない。
そんな事は教わらずに育った。
ただ強く、強く、たくましく。
可愛さも華やかさも持たず、
その他の多くに紛れる外見。
何の特技も取り柄も無くて。
もう疑問や悩みも持たずに、
呼吸をし生きる日々だった。

そんな私を見つけてくれたね。
あなたは私を特別だと言った。
あなただけがそう言ってくれた。

顔を見る度に惹かれてしまった。
気付いた時には引き返せない程、
あなたに恋心を抱き堕ちていた。

…だからすぐに分かったのよ。
あなたが誰を見つめているか、
どれだけ本気かっていう事も。
こっちが恥ずかしくなる位に、
分かりやすく嘘がつけない人。

でもね、彼女は違うんだよ。
心を捧げる様な女じゃない。
あの女はあなた以外にも…。
言える訳ないけれど。だって…

優しく彼女に微笑みかけて、
そのしなやかな指でそっと、
彼女の髪に触れるあなたを、

遠くから、ううん、一番近くで
激しい嫉妬にまみれ、見ているだけ。

この女は昔からそうだった。
笑顔も涙も何でも武器にして、
色んな男を取っ替え引っ替え。
それに騙されてる馬鹿な男達。
あなたはそうあって欲しくない。
…でも言えない。伝えられない。

私のものじゃないけど、ただ、
見つめているだけで幸せになる。
彼女と自分を置き換え妄想する。
…悔しい、悔しいよ、気付いて。

その女は天使なんかじゃない。
微笑みの裏には悪魔の様な魂。
深く燃ゆる私の恋心に反比例、
彼女に夢中なあなた。苦しい。

早く、その女の本性を見抜いて。
でも、言えない。だって私は彼女の…

*****

え?どうしたの?どういうこと?
泣きながら彼女が私に近付いてくる。
きっと得意の偽りの涙でしょう?
でも何が起きたの?一体、何が?

…彼女を抱き寄せるあなた。…?
嘘っぽい、安っぽい涙を慰めてる。
何なの、この茶番。見たくもない。
あれ、でも、何かがおかしい…。

そしてあなたは優しく彼女に言う。
「大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫。
そんなに泣かないで。仕方ないよ。
命あるものは皆いつか死ぬんだ。
ほら、まだ他の子は元気だし…ね」

彼を見つめ泣きじゃくる彼女。
あははははは。私の命なんて、
あなた達の恋愛ごっこの材料。

そう。私は彼女の家で飼われていた
水槽の中にいる大勢の熱帯魚の一匹。

愛されたいと愚かにも願っただけの。
名もなき死にゆくただの、一熱帯魚。
生まれ変わったら人間になれるかしら

(2014.April)

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