この世界で

俺はその瞳を見て、一秒で後悔した。
視線が重なった瞬間に後悔を覚えた。

あまりにも何もかもが変わってない。
お前もこの場所も全てあの頃のまま。
変わらない様にしていてくれたのか、
変わってない様に見せてくれたのか、
どちらにしろ、この歓迎は優しさだ。
努力無しではあり得ぬ無変化だから。

まるで、俺の居場所を毎日磨いて、
空けておいたみたいに、微笑みながら
懐かしい笑顔で、待っていたよと。

あぁ、お前は本当にバカだな。
俺はもっともっとバカだけど。

別々の道を歩き始めてからの俺は、ダムが決壊した様に自暴自棄な堕落を重ねた。
日に日に内部破壊は進行、チラつくお前との記憶が余計に俺を荒ませた。

こんな俺を知ったら哀しい顔するだろうと、考えてイラつきが止まらない。
まともどころか、光に導こうとするであろうお前が何故か鬱陶しかった。

そんな自堕落の先に俺は取り返しのつかない悲劇を招いた。悲惨だ。
自業自得だと分かるからこそ、
重圧と辛辣な現状に耐えきれず
…消えてしまいたい。

気付けば足が向いたのはここだった。
還るべき処に魂が勝手に向かった。

俺の避難所はお前の心にしかない。
何から話したら良いのか…いや、
言葉なんてお互い不必要だった。
一目見て後悔と同時に安堵に包まれた。
相変わらず木漏れ日を作り出す天才だ。
もう全てを解ってくれているんだな。
俺以上に俺の事を。
嘘なんて微塵もつけなくなる。

まるで昨日まで一緒に居たみたいに、
すぐに俺達の空気はあの頃に戻った。

今日だけは色んな事から逃げたい。
勿論、沢山くだらない事で笑った。
でもお前は向き合わさせてくれた。
初めて最もらしい言葉で諭された。
俺はうなづくしかなかった、もう。
的を得過ぎて、弁解の余地もない。
恥ずかしくて情けなくてやりきれない。

俺の頬を殴り、指を強く噛み続けて、
懸命に俺の生気を取り戻そうとする。
「痛ぇ」何でお前が泣いてるんだよ?
笑える、こんな俺の為に泣くなんて。

俺は恐怖からお前と離れたんだ。
あの頃怖かったんだ、とてつもなく。
時に親友であり、仲間であり、恋人であり、家族であり、同志であり、日本語では俺達の関係性に当てはまる単語はない。ソウルメイトってやつが一番近いのか?
とにかく、俺の喜怒哀楽全てを引き出し、受け止め、肯定し続けてくれた。

我儘放題で今迄生きてこれてしまった俺は勘違いをしていた。どこまで傷付けても許されるし、それこそ絆の証明だとさえ、なんて傲慢だったんだ。

一人の人間の存在だけで、
世界が成り立ってしまう。
…じゃあこいつが消えたらどうする?
俺はそれがとてつもなく怖かった。

だからあの日、思いっきり傷付け、
でもまたねと、逃げ道を作りながら
意味不明で最悪な終わらせ方をした。

それで堕落しては舞い戻ってきて、
そんな俺を喜んで受け入れてくれ、
もう一体何なんだよ、この世界は。

ただ分かったのは、不幸だと自然と痛みも分け合ってしまう。離れていても幸せに生きている事がお互いの願いだと。
…一緒にいる事以上の幸せは無いが。

「生きてくれよ、生き抜いてくれなきゃ、またこうして再会も出来ない。」
その瞳は殆どが水分で出来ているのか、必死に滲ませながら、痛烈に訴えてくる。

そうだ。ひたすら生きる事を諦めず、
導かれる様な再会に希望を持ち続け
約束もせず辿り着けると信じて歩く。

「ありがとう」俺はあの世界に戻る。
君を失った世界で生き抜いてみせる。
でもそれは、またこの世界に還る為。
傷だらけになっても乗り越えて行く。

「なぁ、5年経ってもお前の中に俺はいるのか?消えないのか?」

「10年経っても20年経っても君を消せる訳無いだろ。そんな分かり切った事を聞くなよ。君がこの世界のどこかに存在しているから僕はここで生きれるんだ。」

やっぱりこいつバカだ。誇らし気に
俺と過ごした日々を宝物だと言う。
色褪せないのは俺も同じだ。鏡だ。

「またね。」
「またね。」

振り返らずに歩いたのは、
背中でも分かったからだ。
お前が号泣する姿が瞼に。
でも、それだけじゃない。
俺も情けない顔で唇を噛んでいた。
一番居心地の良い世界に背を向け、
またしても戦いだけの世界に戻る。

でももう分かったんだ。形を変えても
俺達ははぐれたりしないと確信した。

だから負け戦にも全力で挑む。
自身との戦いに負けられない。

また酷く傷み立ち上がれなくなる程に
俺の魂が消えるのを感じたら呼んでくれ。波動で導いて、こうして救ってくれ。

行って来る。もう泣くなよ。
お前の笑顔が見たいんだ。
いつかこの世界で笑わせてやる。
だから、もう泣かないでくれ。

(2014.July)

0コメント

  • 1000 / 1000