「またね」
「人ってさ、生きる程に強くなっていくのかな?それとも弱くなっていくのかな。」
唐突に君が零した疑問は、僕に答えを求めてる訳ではなく、心の声を漏らしてしまった様だった。
どんな言葉を返しても、君にとっての正解ではない気がして、僕はただ君の独り言を静かに聞いていた。
「本当の俺の姿を見せたら、もう誰にも必要とされなくなる気がするんだ。だから演じ続けなきゃ、俺は俺じゃないんだ。」
そんな事ない、だから僕は君の隣りにいるじゃないか。…そう素直に言ってあげれば良かったのに、僕なんかが何を言っても、と。
あの時の僕は君に何かを伝えられる人間じゃなかった。そもそも僕こそ、君にとって一体何なのかが分からなかった。
ただ君はいつも忘れ物をした。
ある時は帽子、
ある時はブレスレット、
ある時はサングラス、
ある時は仕事の書類…これはダメだろ。
で「俺の忘れ物あるよな?」
「今から取りに行って良い?」
不器用で照れ屋な確信犯。
僕等の間に会う理由なんて要らなかったのに。ただお互いの存在が、語り合わなくても分かり合える空間を感じる事が、幸せだった。世界一居心地の良い、自分のままで居て許される場所。
一緒に現実逃避を散々楽しんでいた。
行く先不明のオンボロ船に乗った、
インチキで自由な海賊気取りをして、
バカみたいに毎日笑っていたんだ。
ただいつからか原因不明のまま、誤解されたり誤解したり、焦って解こうとして余計こんがらがり僕達は迷子になった。
はぐれた道で違う光や闇を知った。
それらを共有する事は困難だった。
もう別々の明日が迎えに来ていた。
君は泣きそうな顔で笑いながら、
一人で戦う未来を見据えていた。
ありがとうもさようならもなかった。
「またね。」
その一言は何よりも僕が欲しかった言葉だ。さすがの以心伝心力。
例え「また」が永遠に訪れなくても、
いつか…と信じる気持ちに救われた。
君の背中が見えなくなってから、
僕は声を上げ枯れるまで泣き果てた。
今でも思うんだ。あれからの君が、どんな道を歩いて、どう戦い、今は誰と笑っているのか、辛くなってないか。
いつだって心配でたまらないんだ。
ただ幸せでいてくれと毎晩月に祈る。
僕も何とか前を向いて歩けてるよ。
もし君の言っていた「またね」がこの道の先にあるとしたら、どんな僕達で再会をするのだろうか。
いずれにしても辿り着くのは相当な確率だけど、二人で航海していたつもりの海を見れたらいいな。あの頃に戻った様に、くだらない話しでひたすら笑い合うんだ。
離れてからも僕の心から消えない。
君といた全ての時間は消えないよ。
自分を責めずに投げ出さずいてくれ。そのままの君を必要としている人達は必ずいる。君は愛されるべき人間だ。
どんなに雑な振りをしても繊細で、感じる心を君は持っているから。
光の道から逸れても、ずっと味方だ。
君がただこの世に存在している事が、
同じ時間を過ごした思い出と絆が、いつだって僕を支えてくれている。
その日を描いて今日も生きるよ。
僕は僕のまま。君は君のまま。
財宝以上に価値のある日々だったな。
さようならと言えなくてごめん。
「またね。」
「またね。」
僕達の最強の合言葉だ。
(2014.June)
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