Bird in a cage
沢山の人を幸せにしながらも
彼は幸せそうではなかった事。
人より百倍いつも笑顔なのに
瞳の奥は笑えていなかった事。
夢など見ていられなかっただろう。
使命を全うし続ける責任で手一杯。
上手くこなす程、本来の自分の
抱える闇に病みと影は深くなり、
水面下での分裂は進行していた。
「雨降っても、傘ささないポリシー」
何を言ってるの、風邪ひいちゃうよ?
笑う私の差し出す傘を嫌々受け取る。
どんな状況に追い詰められても
弱音も愚痴の欠片もこぼさずに
自分の定めを受け止めていたね。
風を切って、颯爽と歩く姿。
人に夢を与える才能と魅力。
でも捨て猫みたいに丸まって眠る。
呻き声と痙攣でその額にいつも汗。
*****
海は優しく私を包んでくれる。
全て洗い流してくれなくとも。
ただひたすらに繰り返す波音。
あの都会と彼から逃げる様に、
物理的に会えない場所に行く。
それ位しか思いつかなかった。
引き裂かれ千切れる様な感覚。
エゴを伝え、ぶつかり、追い掛け
どこまでも感情表現し尽くす事が
愛だと思って貫いてきた過去の恋。
そんな私が相手の為に変わりたいと、
無意識に思えたのは、初めてだった。
絶対に彼を壊したくない。
その未来を壊したくない。
私は貴方を守る術を知らなかった。
誰よりも大空で羽ばたく夢を見て
籠の中でしか生きられない運命と
葛藤を抱いた虹色に輝く美しい鳥。
いつの日か気高く誇らしく自由に
貴方らしく空を飛んでいて欲しい。
その姿を遠く見る事が出来たなら。
籠の中の鳥を愛してしまった、
儚くて、愚かで大切な夢物語。
そっとこの胸の中に閉じ込め
ずっと独りで宝物と呼ぶから。
(2014.March)
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