そう、確かに

僕達は同じ世界を生きていた。
唯一無二の世界を創り上げて。
狭くて陽の当たらないワンルーム。
不純物の混じらぬ二人だけの空間。

初めて視線を交わした瞬間から
互いの存在を人生に取り込んだ。
もう何も探さなくて良いと感じ
彼女の瞳にも同じ温度を察した。

壊れ物を扱う様に触れ合い始め
現実から逃げる為に、あるいは
現実を生き抜く為に寄り添った。

激しい鼓動の高鳴りに反比例し、
包み込まれる様な安らかな心地。
太陽から目を背けて編んだ日々。
月明かりが照らした記憶の彼女。

全く異なった世界で生きてきた。
彷徨い歩き疲れた先に辿り着く
砂漠の中のオアシスってやつだ。

彼女の前でだけ本当の僕で在れた。
そのままの僕本体を愛してくれた。
新しい自分に出逢えたりもして。
トマト嫌いな僕が、彼女の作ったトマトシチューなら、お代わりも出来たんだ。

何時間も手を繋ぎ音楽を聴いた夜明け前。
恐らく全く興味のないジャンルだったであろう、マニアックな楽器の話しにも、
いつも楽し気にうなづいてくれた。
次会った時には、もう一緒にアルバムを全曲口ずさんで、僕より詳しく語る彼女が愛おしかった。
同じ酒を飲み、映画を観て、口癖を真似合い、星屑の様な感覚さえ共有し、
尽きぬ話を幾晩も幾朝まで語り明かした。

狭い空間は無限の夢幻の宇宙だった。
時に些細な事で喧嘩をしてみた。
そして更新の為に仲直りをする。
すれ違ったり傷つけ合う事も
愛を深める為に愉しんでいた。

ただ、一度だけ突き刺す様な言葉を
彼女が精一杯の勇気を込めて放った。
あの日…最後の朝。
「あなたは突出した才能を持っているけど、人として欠落している部分がある。」
涙まみれに僕を抱き締めながら。
きっと相当苦しかっただろう。
似た者同士の自分に厳しい僕達。
彼女はあの言葉を自身も背負った。

同じ痛みや情熱を分かち合っても、
一寸先の闇の深さに崩壊が…
いや、破壊が始まっていた。
どちらが悪いとか、間違いとかではなく、
定められていた「その日」が、
静かに僕達を迎えに来たんだ。
音も立てずひっそり、しっかり
二人の世界の全てを奪い上げた。
もともと運命に逆らいながら、
全て承知で求め合ってしまった。
見つめ合うだけで命の尊さを感じたから…。

僕は僕だけの人生と生活に戻った。
彼女も元の道に無事に還れたのか。
あれからどれ位の時間が経ったか。
出逢いの日も昨日の様に鮮明なまま。
二人で創り、築き、怯え、漂い、慈しみ、
噛み締めて、壊した、二人だけの世界。
そう、確かに、共に生きていた。
そう、確かに、愛を知ったんだ。
そして失って、愛を学んだんだ。

淡く微かな春の足音を感じながら…。

(2014.March)

M's tail

in side my soul...

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